2026年8月31日~9月4日のドル円見通しを解説。米雇用統計、ISM、JOLTS、FRB利上げ観測を確認し、160円台定着と為替介入リスクを分析する。
2026年8月24日~28日のドル円は、158円台後半からじりじりと下値を切り上げ、週末には160円台を回復した。最大の転機は28日のジャクソンホール会議であり、ウォーシュFRB議長がインフレ抑制にはなお「やるべきことがある」と示唆すると、9月利上げ観測が急上昇し、米金利上昇とドル買いが加速した。
来週は9月4日の米雇用統計が最大の焦点であり、160円台を維持できるかが次の方向を考える重要な材料となる。
1.今週のドル円相場を振り返る
2026年8月24日~28日のドル円は、週初158.87円で始まり、24日に週間安値158.56円を付けた後、5営業日続伸した。28日のジャクソンホールでのウォーシュFRB議長講演後には7月31日以来となる160円台を回復し、160.09円で週を終えた。週間高値は160.20円である。
| 項目 | USD/JPY |
|---|---|
| 週初値 | 158.87円 |
| 週間高値 | 160.20円 |
| 週間安値 | 158.56円 |
| 週終値 | 160.09円 |
| 週間値幅 | 1.64円 |
| 前週末比 | +1.12円(約+0.70%) |
前週21日の終値158.97円との比較で算出した。
週初:158円台後半から下げ渋る
24日のドル円は158.87円で始まり、一時158.56円まで下落したものの、その後は159円台へ戻した。日中はジャクソンホールでのウォーシュFRB議長講演を控えて積極的に方向を取りにくく、159円前後を中心とした値動きとなった。
25日に発表された米コンファレンス・ボード消費者信頼感指数は89.4と、7月の90.2から低下し7カ月ぶりの低水準となった。とくに将来の景況感や雇用に対する見方が悪化しており、米景気には弱さも残っていることが確認された。
ここで重要なのは、
景況感悪化
→ FRBが利上げしにくくなる
→ 米金利低下
→ ドル売り
という通常の経路が考えられる一方、ドル円そのものは大きく崩れなかったことである。 25日のドル円は159.05~159.49円で推移し、159.19円で終了した。
週央:PCEは高止まり、ドル円はじり高
26日に発表された7月米PCE価格指数は前年比3.7%、コアPCEは前年比3.3%となり、FRBの2%物価目標を依然として大きく上回った。
PCEはFRBが重視するインフレ指標である。
今回の結果は、
インフレが2%へ十分に低下していない
→ FRBの追加利上げ余地が残る
→ 米金利が上昇しやすい
→ ドル買い
という解釈につながった。
トレーダーズ・ウェブも26日のニューヨーク市場で、米長期金利の上昇に伴ってドル買いが進み、ドル円が159.42円まで上昇したと報じている。26日の四本値は158.88~159.45円、終値159.31円であり、これで3営業日続伸となった。
27日も大きな方向転換は起こらず、159.12~159.53円で推移して159.39円で終了した。市場は翌日のウォーシュ議長講演を待つ状態となった。
週末:ウォーシュFRB議長が流れを変える
今週最大の材料となったのが、28日のジャクソンホール会議である。
ウォーシュFRB議長は講演で、インフレが2%へ向かっているとの確信が得られなければ、FRBにはなお「やるべきことがある」との認識を示した。また現在の金融環境について、明確に景気抑制的とは言い難いとの見方も示している。
事実として、ウォーシュ議長は9月利上げを明言していない。
しかし市場は発言をタカ派、つまり金融引き締めに積極的な方向と解釈した。
CME FedWatchによる9月FOMCでの25bp以上の利上げ確率は、講演前の約35~36%から講演後には約58%まで急上昇した。12月までに利上げが行われる確率も約89%まで上昇している。
これにより、
ウォーシュ発言
→ FRB利上げ観測上昇
→ 米国債利回り上昇
→ ドル買い
→ ドル円160円回復
という明確な因果関係が生まれた。
Reutersによるとドル指数は一時99.727と8月17日以来の高値へ上昇し、ドル円も160.15円まで上昇した。トレーダーズ・ウェブでも160.13円までの上昇が確認されている。
一方、金は3%近く急落した。金は利息を生まないため、政策金利の上昇観測が強まると相対的な魅力が低下しやすい。今回のドル高が単なる円売りではなく、米金融政策の織り込み変化を伴ったドル全面高であったことを示す材料でもある。
ただし円側にも材料がある。
28日に発表された東京の物価データは日本のインフレ圧力が続いていることを示し、日銀の追加利上げ観測を支える材料となった。さらに日本政府は7月30日~8月26日に円買い介入へ15.4兆円を投入したことが明らかになっている。160円台では再び介入警戒が強まりやすい。
2.来週の重要イベント
来週は月またぎとなり、対象期間は2026年8月31日(月)~9月4日(金)である。
米国のレーバーデーは翌週9月7日(月)であるため、この週の米市場に祝日休場はない。BLSの公式日程でも9月4日の雇用統計公表が確認できる。
| 日付・日本時間 | 国・地域 | イベント | 市場予想・前回値 | ドル円への注目点 |
|---|---|---|---|---|
| 9月1日(火)23:00 | 米国 | 7月JOLTS求人件数 | 予想730.0万件/前回735.9万件 | 雇用需要の先行指標 |
| 9月1日(火)23:00 | 米国 | 8月ISM製造業景況指数 | 予想55.3/前回55.6 | 景気の強さと雇用・価格指数 |
| 9月2日(水)21:15 | 米国 | 8月ADP雇用者数 | 予想+3.9万人/前回+4.4万人 | 雇用統計前の雇用環境確認 |
| 9月3日(木)23:00 | 米国 | 8月ISM非製造業景況指数 | 予想54.3/前回54.1 | 米経済の中心であるサービス業 |
| 9月4日(金)21:30 | 米国 | 8月雇用統計 | NFP予想+4.5万人/前回-2.3万人、失業率予想4.2%/前回4.1% | 9月FOMC利上げ判断を左右する可能性 |
JOLTSの正式な公表日は米労働統計局(BLS)で9月1日午前10時(米東部時間)と確認できる。
注目① 9月4日 米雇用統計
来週最大のイベントだ。
BLSは8月雇用統計を9月4日8時30分(米東部時間)、日本時間21時30分に公表する予定である。
市場予想は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+4.5万人、前回は-2.3万人。失業率は4.2%、前回4.1%が予想されている。
ここで今週のウォーシュ発言が効いてくる。
現在の市場は9月利上げ確率を約58%まで引き上げた。
つまり来週は、
雇用統計
→ 9月FOMCの利上げ確率
→ 米2年債利回り
→ ドル円
という経路が非常に重要になる。
雇用者数が予想を大きく上回り、失業率も4.1%以下にとどまれば、
雇用は利上げに耐えられる
→ 9月利上げ観測上昇
→ 米2年債利回り上昇
→ ドル高
となりやすい。
逆にNFPが再びマイナスとなったり、失業率が4.3%以上へ上昇したりすれば、
インフレは高いが雇用が弱い
というFRBにとって難しい状況になる。
この場合、ウォーシュ発言後に積み上がった利上げ期待が巻き戻され、ドル円が急落する可能性がある。
雇用統計の確認方法については、関連記事「米雇用統計の見方」でも解説している。
注目② ISM製造業・非製造業景況指数
9月1日のISM製造業景況指数は55.3、9月3日のISM非製造業景況指数は54.3が市場予想となっている。製造業の前回値は55.6、非製造業は54.1である。
ISMは50を上回れば企業活動の拡大、50を下回れば縮小を示す。
今回は総合指数だけでなく、雇用指数と価格指数にも注目したい。 景況感が強い+価格指数も高いとなれば、景気が利上げに耐えられる + インフレ圧力も残るため、ウォーシュ議長の主張を補強する。
一方、総合指数低下 + 雇用指数低下となれば、9月利上げへの疑問が強まる可能性がある。
注目③ JOLTS・ADPから雇用統計へ
JOLTS求人件数は企業がどれだけ人を採用したいと考えているかを示す指標であり、7月分は730万件が予想されている。前回6月は約736万件であった。また、2日にはADP雇用者数が発表される。
注意点としては、ADPと政府の雇用統計は調査方法が異なるため、ADPが強ければ雇用統計も必ず強いという関係ではない。ADPについては、関連記事「JOLTS・ADP・ISM雇用指数の違い」でも解説しているため参考にされたし。
来週は個々の数字より、
JOLTS
→ ADP
→ ISM雇用指数
→ 雇用統計
と、雇用市場の情報が積み重なるにつれてFedWatchがどう変化するかを見る方が重要である。
FedWatchについては、関連記事「CME FedWatch Toolの見方と使い方」でも解説している。
3.来週のドル円見通し
メインシナリオ
筆者のメインシナリオは、160円を挟んだ神経質な展開となり、最終的な方向は9月4日の米雇用統計で決まるというものである。
今週末時点では、PCEの高止まりとウォーシュ議長のタカ派発言から9月利上げ観測上昇。
結果として米金利上昇、ドル高という流れが成立している。
これは先週までとは違う流れである。
一方、160円台は、7月末に日米の為替介入が行われた水準に近い。
日本政府は7月30日~8月26日に過去最大規模となる15.4兆円を円買い介入へ投入しており、市場参加者が160円台で無警戒にドルを買い上げる状況ではない。
したがって、
米金融政策はドル高
介入警戒と日銀利上げ観測は円高
という2つの力がぶつかる可能性がある。
メインシナリオを修正する条件: 160.20円を明確に上抜き、FedWatchの9月利上げ確率と米2年債利回りも同時に上昇する場合、または159円を割り込み、利上げ確率が50%を明確に下回る場合。
ドル高・円安シナリオ
ドル高シナリオは、
ISM堅調 + JOLTS・ADPが雇用の底堅さを示す + 雇用統計上振れ
である。
この場合、
米景気・雇用が利上げに耐えられる
→ 9月利上げ確率上昇
→ 米2年債利回り上昇
→ 日米金利差拡大期待
→ ドル円上昇
となる可能性がある。
160.20円を突破すると、次は160.50円、161.00円が心理的な節目となる。
ただし上昇すればするほど為替介入リスクも非線形に高まる点には注意したい。
シナリオ修正条件: 強い米指標でも米2年債利回りやFedWatchが上昇しない、あるいは160円台で円買いが急激に入る場合。
ドル安・円高シナリオ
ドル安シナリオでもっとも重要なのは雇用統計である。
たとえば、
NFP(雇用統計)が再びマイナス + 失業率4.3%以上 + 賃金上昇率鈍化
となれば、市場は「インフレ対策のために利上げしたくても、雇用市場が耐えられない」と判断する可能性がある。
すると、「9月利上げ確率は低下し、米2年債利回りの低下に伴うドル売りからドル円が再び159円割れになる」という展開が考えられる。
158円台へ戻れば、今週の上昇がウォーシュ発言による一時的なポジション調整だったとの見方も強まる。
シナリオ修正条件: 弱い雇用統計にもかかわらずFedWatchの利上げ確率が高止まりし、ドル円が159円台後半を維持する場合。
4.ドル円のテクニカル見通し
今週のドル円は非常に分かりやすい変化を見せた。
24日158.56円
→ 25日159.05円
→ 26日158.88円
→ 27日159.12円
→ 28日159.30円
と、日々の下値がおおむね切り上がっている。さらに終値も24日の159.11円から28日の160.09円まで5営業日連続で上昇した。5連続陽線となっており、短期的には買い側が優勢である。
上値の注目水準
160.20円
今週高値であり、最初の抵抗線である。
ここを明確に上抜けば、7月末以来の160円台定着を試すことになる。
160.50円
心理的な中間節目である。
161.00円
大きな心理的節目であり、介入警戒もさらに強まりやすい。
下値の注目水準
159.50円前後
28日の上昇前に売買が交錯した水準であり、短期的な最初の支持候補である。
159.00円
心理的節目であり、26日の安値158.88円とも近い。
158.50~158.60円
24日の週間安値158.56円が位置する。ここを割り込むと、今週形成した上昇トレンドが崩れたと判断しやすくなる。
テクニカル上の分岐点
来週は、
上:160.20円
下:159.00円
を最初の分岐点と考えたい。
160.20円を日足で明確に突破すれば上昇継続が意識される。
反対に159円を割り込むと、ジャクソンホール後のドル買いが巻き戻され始めた可能性を考える必要がある。
5.まとめ
2026年8月24日~28日のドル円は158.87円で始まり、24日の158.56円を週間安値として下値を切り上げ、28日には160.20円まで上昇した。週終値は160.09円となり、7月末以来となる160円台を回復した。
最大の転機はジャクソンホールでのウォーシュFRB議長講演である。インフレが2%へ十分に向かっていなければFRBにはなお対応が必要との認識が示され、CME FedWatchの9月利上げ確率は講演前の約35~36%から約58%へ急上昇した。米金利とドルが同時に上昇した点も重要である。
来週8月31日~9月4日はJOLTS、ISM、ADPを経て、4日の米雇用統計へ向かう。重要なのは指標単体ではなく、「指標→9月FOMCの織り込み→米2年債利回り→ドル円」という連鎖である。
強い雇用が確認されれば160円台定着から161円方向を試す余地がある一方、雇用悪化で利上げ期待が剥落すれば159円割れも考えられる。そして160円台では日本政府の為替介入も無視できない。
したがって来週は、160.20円突破か159円割れか、そしてその動きがFedWatchと米短期金利によって裏付けられているかを確認することが重要である。
なお、2026年8月のドル円相場全体の流れは、「2026年8月のドル円相場まとめ」で整理している。こちらも併せて確認すると今月のドル円相場の流れをつかみやすい。
本記事は市場動向の解説を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨する投資助言ではない。
