米雇用統計の見方を初心者向けに解説。非農業部門雇用者数、失業率、平均時給、改定値、労働参加率の読み方と、米国金利やドル円相場への影響を整理します。
米雇用統計の見方|非農業部門雇用者数・失業率・平均時給をドル円に生かす
米雇用統計は、米国の景気とFRBの金融政策を考えるうえで、もっとも重要な経済指標とも言えるでしょう。発表直後には米国債利回りやドルが大きく動き、ドル円が短時間で上下することも珍しくありません。世界中のFXトレーダーの月に一度のお祭りといえます。
ただし、非農業部門雇用者数だけを見て「強い」「弱い」とただ判断していませんか?
失業率や平均時給、労働参加率、過去分の改定値まで確認しなければ、米国の労働市場を正しく理解できないことがあります。
本記事では、米雇用統計の主要項目と、ドル円相場への影響を読み解く手順を解説します。
米雇用統計とは
一般に「米雇用統計」と呼ばれているのは、米労働省労働統計局(BLS)が公表する「Employment Situation」です。
発表時刻は米東部時間の午前8時30分で、日本時間では米国の夏時間中が21時30分、冬時間中が22時30分です。通常は対象月の翌月第1金曜日に発表されますが、暦の関係で日程がずれることもあるため、毎回経済指標カレンダーを確認する必要があります。
米雇用統計には、主に次の2つの調査が使われています。
| 調査 | 主な指標 | 調査対象 |
|---|---|---|
| 事業所調査(CES) | 非農業部門雇用者数、平均時給、平均労働時間 | 企業・政府機関 |
| 家計調査(CPS) | 失業率、労働参加率、就業者数 | 一般家庭 |
非農業部門雇用者数と失業率は、同じ雇用統計の中で発表されますが、元になっている調査が異なります。この違いを知ることが、米雇用統計を読む第一歩です。
1.非農業部門雇用者数とは
非農業部門雇用者数は、英語で「Nonfarm Payrolls」と呼ばれ、NFPと略されます。
米国の企業や政府機関の給与支払い名簿に登録されている雇用が、前月からどれだけ増減したかを示す指標です。BLSの事業所調査は、約11万9,000の企業・政府機関、約62万2,000の事業所を対象に、雇用者数、労働時間、賃金を集計しています。
「人」ではなく「仕事の数」を数える
非農業部門雇用者数で重要なのは、働いている人の人数ではなく、給与が支払われる「雇用・仕事の数」を数えていることです。
一人が2つの会社で働いていれば、事業所調査では2つの雇用として計上されます。
一方、自営業者、農業従事者、一般家庭に直接雇用される家事労働者などは含まれません。
したがって、非農業部門雇用者数が10万人増えたからといって、働く人がちょうど10万人増えたとは限りません。これは雇用統計を理解する上で重要なポイントです。
市場予想との差が重要
為替市場では、雇用者数の絶対的な大きさよりも、市場予想との差が重視されます。
たとえば市場予想が10万人増だった場合、
- 20万人増なら予想を上回る強い結果
- 10万人増ならおおむね予想どおり
- 3万人増なら予想を下回る弱い結果
- マイナスなら雇用減少
と評価されます。
強い雇用者数は、米国景気が底堅く、FRBが利下げを急ぐ必要がない、あるいは金融引き締めを維持しやすいという見方につながります。
その結果、
雇用者数が予想を上回る
→ FRBの利下げ観測が後退
→ 米2年債利回りが上昇
→ ドル買い
→ ドル円上昇
という流れが起こりやすくなります。
反対に、雇用者数が予想を大きく下回ると、景気減速や利下げ観測から米国金利が低下し、ドル円も下落しやすくなります。
業種別の中身も確認する
雇用者数全体が増えていても、一部の業種だけに雇用増加が偏っている場合があります。
主に確認したいのは、次のような項目です。
- 民間部門の雇用
- 政府部門の雇用
- 製造業
- 建設業
- 小売業
- 運輸・倉庫
- 専門・ビジネスサービス
- 教育・医療
- 娯楽・宿泊・飲食
- 人材派遣などの臨時雇用
景気に敏感な製造業、建設業、人材派遣などで雇用が減っている一方、政府や医療だけで全体が押し上げられている場合、見出しほど労働市場が強くない可能性があります。
2.失業率とは
失業率は、事業所調査ではなく、一般家庭を対象とした家計調査から算出されます。家計調査は毎月、科学的に選ばれた約6万世帯を対象に行われています。
公式の失業率は、次の計算によって求められます。
失業率=失業者数÷労働力人口×100
労働力人口とは、働いている人と、仕事を探している失業者を合計した人数です。
仕事がない人すべてが失業者ではない
BLSの定義では、失業者に分類されるには、原則として次の条件を満たす必要があります。
- 調査対象週に仕事をしていない
- 働くことが可能である
- 過去4週間に具体的な求職活動を行った
- または一時解雇中で復職を待っている
仕事をしていなくても、最近仕事を探していなければ「失業者」ではなく「労働力人口に含まれない人」として扱われます。
このため、失業率が下がったからといって、必ずしも雇用環境が改善したとは限りません。
失業率低下が悪材料になる場合
たとえば、仕事探しを諦めた人が増えると、その人たちは労働力人口から外れます。
その結果、
労働市場から退出する人が増える
→ 労働力人口が減る
→ 計算上の失業率が低下する
ということがあります。
したがって、失業率を見るときは、労働参加率も合わせて確認する必要があります。
労働参加率も確認する
労働参加率は、16歳以上の民間人のうち、働いているか、積極的に仕事を探している人の割合です。
失業率低下の評価は、次のように分けられます。
| 失業率 | 労働参加率 | 基本的な見方 |
|---|---|---|
| 低下 | 上昇 | 労働市場が改善している可能性 |
| 低下 | 低下 | 求職を諦めた人が増えた可能性 |
| 上昇 | 上昇 | 働きたい人が市場へ戻った可能性 |
| 上昇 | 低下 | 労働市場の悪化を警戒 |
失業率が上昇しても、労働参加率の上昇が原因なら、必ずしも全面的な悪材料とはいえません。
U6失業率とは
ニュースで使われる公式失業率は「U3」と呼ばれます。
BLSはこのほかに、求職を一時的に諦めた人や、経済的な事情でやむを得ずパートタイムで働いている人まで含めた「U6」も公表しています。U6は労働市場の余剰をより広く捉える指標です。
毎月の為替相場ではU3が中心ですが、中期的な雇用環境を考えるときはU6も参考になります。
3.平均時給とは
平均時給は、民間非農業部門の従業員に支払われた1時間当たりの平均賃金を示します。
事業所調査では、雇用者数と同時に平均時給や平均週間労働時間が集計されています。賃金の伸びは、企業の人件費やサービス価格に影響するため、インフレとFRBの金融政策を考えるうえで重要です。
平均時給では、主に次の2つを確認しましょう。
- 前月比:前月から何%増減したか
- 前年比:前年同月から何%増減したか
なぜ平均時給がドル円を動かすのか
賃金が高いペースで伸びると、労働者の消費余力が増える一方、企業の人件費も上昇します。
サービス業では人件費が価格に占める割合が大きいため、賃金上昇が長期化するとサービス価格のインフレが続く可能性があります。
そのため、
平均時給が予想を上回る
→ インフレが下がりにくいとの見方
→ FRBの利下げ観測が後退
→ 米国金利上昇
→ ドル高・円安
となりやすいのです。
FRBは物価安定と最大雇用という2つの目標を持ち、失業率だけでなく、賃金、労働参加率、求人、就業率など幅広い労働市場の指標を確認しています。最大雇用には固定された数値目標があるわけではありません。
平均値特有の注意点
平均時給は、個々の労働者の賃金がどれだけ増えたかを直接示すものではありません。
たとえば、賃金の低い飲食業の雇用が急減し、賃金の高い専門職の雇用が維持されれば、個人の給料が増えていなくても全体の平均時給が上昇することがあります。
反対に、低賃金業種の雇用が大きく増えると、労働市場が強くても平均時給の伸びが鈍化することがあります。
平均時給は、業種別の雇用構成と合わせて読むことが大切です。
4.なぜ雇用者数と失業率が反対に動くのか
米雇用統計では、非農業部門雇用者数が増えているのに失業率も上昇することがあります。
これは、2つの指標の調査方法が異なるためです。
| 非農業部門雇用者数 | 失業率 |
|---|---|
| 企業・政府機関を調査 | 一般家庭を調査 |
| 雇用・仕事の数を数える | 働いている人を数える |
| 副業は複数カウント | 一人を一回だけカウント |
| 自営業者を含まない | 自営業者を含む |
| 農業を含まない | 農業従事者を含む |
家計調査では、仕事を2つ持つ人も1人として数えられます。事業所調査では、2つの事業所の給与名簿に載っていれば2件の雇用として数えられます。
基本的には1人が1つの雇用で成り立っている日本とは、ちょっと異なる感覚ですね。
また、労働市場へ新たに戻ってきた人が増えると、雇用者数が増えていても、仕事を探している人数の増加によって失業率が上昇することがあります。
数字が食い違ったときは、どちらかが間違っていると考えるのではなく、それぞれが労働市場の異なる側面を示していると捉えるべきです。
5.過去分の改定値を見落とさない
非農業部門雇用者数の速報値は、翌月と翌々月に改定されます。
初回発表後に企業から追加の回答が届くため、BLSは翌月に第2次速報、翌々月に最終的な標本ベースの推計値を公表します。さらに年1回、雇用保険の納税記録などを使ったベンチマーク改定も行われます。
たとえば当月の雇用者数が予想を上回っていても、過去2カ月分が大幅に下方修正されれば、労働市場の基調は見出しほど強くないと判断されます。
反対に、当月がやや弱くても、過去分が大幅に上方修正されれば、ドル売りが続かないことがあります。
確認するときは、次のように考えます。
当月の結果
+前月の改定
+前々月の改定
=雇用の実勢
毎月の数字をひとつだけ切り取るのではなく、3カ月程度の平均や改定後の推移を見る方が、労働市場の方向を把握しやすくなります。
6.雇用統計を読む順番
発表直後は多くの数字が同時に公表されるため、あらかじめ確認する順番を決めておくと混乱しにくくなります。
① 非農業部門雇用者数
まず、当月の雇用者数が市場予想をどれだけ上回ったか、下回ったかを確認します。
② 過去2カ月分の改定値
当月の数字と同時に、過去分が上方修正されたか下方修正されたかを確認します。
当月が強くても過去分が大幅に下方修正されていれば、評価は弱くなります。
③ 失業率
失業率が市場予想に対して上振れたか、下振れたかを確認します。
④ 労働参加率
失業率の変化が、雇用改善によるものか、労働市場から退出した人の増加によるものかを考えます。
⑤ 平均時給
前月比と前年比の両方を確認します。金融政策への短期的な影響を考える場合は、市場予想との比較が重要です。
⑥ 平均週間労働時間
企業は従業員を新たに雇う前に、既存従業員の労働時間を増やすことがあります。反対に景気が悪化すると、解雇の前に労働時間を減らす場合があります。
雇用者数だけでなく労働時間も減っていれば、労働需要の減速を警戒する必要があります。
⑦ 業種別雇用
雇用増加が幅広い業種に広がっているか、一部の業種だけに集中しているかを確認します。
⑧ 米2年債利回りとドル円
数字を確認した後は、市場がどのように解釈したかを見ます。
金融政策の見通しを反映しやすい米2年債利回りが上昇していれば、雇用統計はタカ派的に受け止められている可能性があります。
FRBの政策金利見通しが変わると米国資産の相対的な魅力が変化し、金利やドル相場にも影響します。
7.結果の組み合わせとドル円の反応
雇用者数・失業率・平均時給がすべて強い
- 雇用者数が予想を上回る
- 失業率が予想を下回る
- 平均時給が予想を上回る
労働市場が強く、賃金インフレも続いていると判断されやすい組み合わせです。
FRBの利下げ観測後退や利上げ観測の上昇を通じて、米国金利とドル円が上昇しやすくなります。
雇用者数・失業率・平均時給がすべて弱い
- 雇用者数が予想を下回る
- 失業率が予想を上回る
- 平均時給が予想を下回る
労働市場の減速とインフレ圧力の低下を同時に示します。
米国金利低下とドル売りによって、ドル円が下落しやすい組み合わせです。
雇用者数は強いが、平均時給は弱い
雇用は増えているものの、賃金インフレは落ち着いている可能性があります。
景気には強い一方、FRBの金融引き締めを強く促す内容ではないため、ドル円は上昇しても伸び悩むことがあります。
雇用者数は弱いが、平均時給は強い
景気減速と賃金インフレが同時に示される、判断の難しい組み合わせです。
雇用悪化は利下げ材料ですが、賃金上昇はインフレ警戒につながります。米2年債利回りがどちらへ動くかを確認することが重要です。
雇用者数は強いが、失業率も上昇
労働参加率が上昇していれば、働きたい人が労働市場へ戻った結果かもしれません。この場合、失業率の上昇だけを悪材料と判断するのは早計です。
8.発表直後の値動きに飛びつかない
米雇用統計の発表直後は、自動売買によって非農業部門雇用者数の見出しだけに反応し、ドル円が急騰・急落することがあります。
しかし、数秒後に失業率や平均時給、改定値が確認されると、最初の動きが反転することがあります。
たとえば、
雇用者数が予想を上回る
→ ドル円が急上昇
→ 平均時給の下振れと過去分の下方修正が判明
→ 米国金利が低下
→ ドル円が反落
という展開です。
初心者ほど、最初の値動きだけを追わず、主要項目を確認してから市場の解釈を観察する方が安全です。
また、ドル円は米雇用統計だけで決まるわけではありません。日銀の金融政策、為替介入への警戒、株価、地政学リスクなどが重なると、米国金利とドル円が通常とは異なる動きをすることもあります。
9.米雇用統計を見るためのチェックリスト
発表時には、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
| 確認項目 | 注目点 |
|---|---|
| 非農業部門雇用者数 | 市場予想との差 |
| 前月・前々月の改定 | 上方修正か下方修正か |
| 民間部門雇用 | 政府雇用を除いても強いか |
| 失業率 | 市場予想との差 |
| 労働参加率 | 失業率変化の背景 |
| 就業者数 | 家計調査でも雇用が増えているか |
| 平均時給・前月比 | 直近の賃金圧力 |
| 平均時給・前年比 | 賃金上昇の基調 |
| 平均週間労働時間 | 労働需要の強弱 |
| 業種別雇用 | 雇用増が幅広いか |
| 米2年債利回り | 市場の金融政策解釈 |
| CME FedWatch | FOMCの織り込み変化 |
| ドル円 | 初動が継続するか反転するか |
まとめ
米雇用統計では、非農業部門雇用者数、失業率、平均時給が注目されます。
非農業部門雇用者数は企業の給与名簿上の仕事の増減を示し、失業率は家計調査を基に労働力人口に占める失業者の割合を示します。平均時給は、賃金インフレとFRBの金融政策を考える手掛かりになります。
ただ、繰り返しますが1つの数字だけで米国の労働市場を判断することはできません。過去分の改定、労働参加率、平均労働時間、業種別雇用も合わせて確認する必要があります。
雇用統計が市場予想を上回ったか下回ったかだけでなく、その結果によってFRBの政策金利見通しと米2年債利回りがどう変化したかを見ることが、ドル円を理解するうえでもっとも重要だと言えるでしょう。
