2026年9月7日~11日のドル円見通しを解説。米CPI・PPI、FRB利上げ観測、日銀9月利上げ観測を確認し、155円・157円の注目水準を分析する。
2026年8月31日~9月4日のドル円は、週初の160円台から一転して155円台まで急落した。
最大の変化は、日銀の9月利上げ観測が急速に強まり、円そのものが買われ始めたことである。 一方、4日の米雇用統計は予想を大幅に上回り、FRBの9月利上げ観測も再上昇した。
来週は米PPI・CPIが発表される。とくに11日のCPIは、9月15~16日のFOMCを前にした最大の分岐点となる。
1.今週のドル円相場を振り返る
2026年8月31日~9月4日のドル円は、前週末160.09円から大きく下落した。週前半には160.39円まで上昇したものの、日銀の利上げ観測や円安是正への警戒が強まると流れが反転し、3~4日には155.30円まで円高が進んだ。
| 項目 | USD/JPY |
|---|---|
| 週初値 | 160.07円 |
| 週間高値 | 160.39円 |
| 週間安値 | 155.30円 |
| 週終値 | 156.1円台 |
| 週間値幅 | 約5.09円 |
| 前週末比 | 約-4.0円(約-2.5%) |
週初:160円台でもドル円は伸びきれず
8月31日のドル円は160.07円で始まったものの、終値は159.74円まで下落した。
米10年債利回りは一時4.76%台まで上昇したが、ドル円への反応は限定的だった。月末のロンドン・フィキシングに絡んだドル売りに加え、ベッセント米財務長官が日本の政策対応に言及したことも円安を抑える材料となった。
9月1日には中東情勢の緊迫化と原油高を背景に米国債利回りが上昇し、ドル円は再び160円台へ上昇した。Reutersによれば、原油上昇によるインフレ懸念からFRBの9月利上げ確率は一時68%まで上昇した。
ここまでは、
原油高
→ 米インフレ懸念
→ FRB利上げ観測
→ 米金利上昇
→ ドル高
という比較的分かりやすい動きであった。
しかし同時に日本の10年国債利回りも3%へ上昇し、1996年以来の高水準となった。つまり、米金利だけを見る相場ではなくなり始めていた。
週央:160.39円から急反落、主役が「ドル」から「円」へ
9月2日のドル円は160.39円まで上昇した後、158.22円まで急落し、158.71円で終了した。
きっかけの1つは、高田創日銀審議委員のタカ派的な発言である。市場では日銀が利上げペースを速めるとの観測が強まった。
さらに8月ADP雇用者数が3.8万人増と市場予想4.8万人増を下回り、ウィリアムズNY連銀総裁も政策金利は適切な水準にあるとの認識を示した。
その結果、
日銀利上げ観測上昇
+
FRB利上げ観測後退
→ 日米金利差縮小期待
→ 円買い・ドル売り
という二方向からドル円を押し下げる流れになった。
さらに重要なのが9月3日である。
ドル円は158円台から一気に155.30円まで下落し、終値は155.81円となった。
当初は急激な円高から為替介入も疑われたが、日銀データから実際の介入ではないことが確認された。Reutersは、日銀利上げ観測と円キャリー取引の巻き戻しが主因と報じている。
円キャリートレードとは、低金利の円を調達して高金利通貨や資産へ投資する取引である。円金利上昇が予想されると、この取引を解消するための円買いが発生しやすい。
円キャリートレードについては、関連記事「円キャリートレードとは?」でも解説している。
Reutersによれば、市場が織り込む9月の日銀25bp利上げ確率は75%まで上昇した。さらに4日時点では、円高の背景として日銀利上げ、海外資産からの資金還流、キャリー巻き戻しが意識されており、9月利上げ確率は97%との市場推計も報じられた。
これは今週のドル円を見るうえで非常に重要な変化である。
週末:強い米雇用統計でもドル円が上がらない
9月4日の米雇用統計は非常に強い結果となった。
非農業部門雇用者数は前月比+16.2万人となり、市場予想+5.5万~5.6万人程度を大幅に上回った。7月分も-2.3万人から+2.1万人へ上方修正された。失業率は4.1%で横ばい、平均時給は前年比+3.1%であった。
これを受けてFedWatchベースの9月利上げ確率は、雇用統計前の約51~52%から一時64~65%まで上昇した。その後は57~60%程度へ落ち着いている。米2年債利回りも一時4.4246%まで上昇した。
通常であれば、
雇用統計上振れ
→ FRB利上げ観測上昇
→ 米2年債利回り上昇
→ ドル高・円安
となる。
実際、ドル円は発表直後に156.75円まで上昇した。
ところが、その後155.36円まで急反落した。
これはかなり重要である。
事実として米雇用統計は強く、米金利も上昇した。
しかし市場の解釈としては、それ以上に日銀利上げ・円キャリー巻き戻し・円安是正への警戒が強く、ドル買いを円買いが打ち消したと考えられる。
今週は「ドルが弱かった」というより、円側の相場環境が変わり始めた一週間と見る方が適切である。
FedWatchについては、関連記事「CME FedWatch Toolの見方と使い方」でも解説している。
2.来週の重要イベント
対象期間は2026年9月7日(月)~11日(金)である。
9月7日は米国のLabor Day(レーバーデー)で、米株式・債券市場は休場となる。したがって実質的な材料は8日以降に集中する。米BLSの公式日程では10日にPPI、11日にCPIが予定されている。
| 日付・日本時間 | 国・地域 | イベント | 市場予想・前回値 | ドル円への注目点 |
|---|---|---|---|---|
| 9月7日(月) | 米国 | Labor Day | 米株・債券市場休場 | 薄商いによる値幅拡大に注意 |
| 9月8日(火)8:50 | 日本 | 4~6月期GDP・2次速報 | 年率予想+1.7%/速報+1.1% | 日銀9月利上げ観測 |
| 9月10日(木)21:30 | 米国 | 8月PPI | 市場予想:確認時点で未確認 | CPI前のインフレ圧力確認 |
| 9月10日(木) | ユーロ圏 | ECB理事会 | 25bp利上げをほぼ織り込み | 世界的な金利上昇・債券市場への波及 |
| 9月11日(金)21:30 | 米国 | 8月CPI | 市場予想:確認時点で未確認/7月前年比+3.4% | 9月FOMCの利上げ判断を左右 |
| 9月11日(金)23:00 | 米国 | ミシガン大学消費者信頼感・速報 | 前回51.7/予想未確認 | インフレ期待に注目 |
米CPIはBLS公式日程で9月11日8時30分(米東部時間)、日本時間21時30分に予定されている。PPIは前日の9月10日である。 (Bureau of Labor Statistics)
注目① 9月11日 米CPI
来週最大のイベントである。
9月15~16日のFOMC直前であり、今回のCPIは事実上、FRBの9月利上げ判断に対する最後の大型材料となる。
8月雇用統計後、市場では9月利上げ確率が約60%まで上昇した。Reutersによれば、強い雇用統計を受けて一部の市場参加者は年内2回の利上げまで想定している。
ただしFRB内部では意見が割れている。
ウォーシュFRB議長はジャクソンホールでインフレへの警戒を示した一方、ウォラーFRB理事はインフレ鈍化が続けば9月は据え置きを支持する可能性を示した。ウォラー発言後、9月利上げ確率は59%から48%まで低下した。
そこへ強い雇用統計が出て、再び約60%へ戻ったわけである。
つまり市場は、
雇用統計=利上げ寄り
まで判断したが、
CPI=最終判定
という状態にある。
CPIが上振れれば、
インフレ高止まり +強い雇用 → 9月利上げ確率上昇 → 米2年債利回り上昇 → ドル買い
となりやすい。
逆にCPIが明確に鈍化すれば、ウォラー理事の「1会合待てる」という主張が説得力を増し、利上げ観測が急速に剥落する可能性がある。
注目② 9月8日 日本GDP改定値
日本の4~6月期GDP・2次速報値は、前期比+0.4%、年率+1.7%への上方修正が予想されている。速報値は前期比+0.3%、年率+1.1%だった。
通常、GDP改定値だけでドル円が大きく動くことは多くない。
しかし今回は事情が違う。
日銀は9月17~18日に金融政策決定会合を予定しており、政策金利は現在1.0%である。
しかも今週、日銀の利上げ観測がドル円を約5円押し下げた。
したがってGDPが上方修正されれば、
日本景気の底堅さ
→ 日銀が利上げしやすい
→ 日本金利上昇
→ 円買い
という反応が出る可能性がある。
反対に大幅な下方修正なら、急速に高まった日銀利上げ期待がやや修正される可能性がある。
注目③ 米PPIからCPIへ
10日のPPIは、生産者段階の物価を示す指標である。
現在は中東情勢による原油高が再び大きな問題となっている。Reutersによれば、WTI原油は週間で約10%上昇した。
したがって来週は、
原油高
→ 生産コスト上昇
→ PPI上昇
→ CPIへの波及懸念
→ FRB利上げ観測
という経路が意識されやすい。
PPIが強ければ翌日のCPIへの警戒からドルが買われる可能性がある。一方、PPIが弱ければCPI前に利上げ観測が後退する可能性もある。
3.来週のドル円見通し
メインシナリオ
筆者のメインシナリオは、155~158円を中心に神経質な値動きとなり、11日のCPIで次の方向を探る展開である。
先週までとは相場の構造が変わっている。
これまでは、
米利上げ観測
→ ドル高
→ ドル円上昇
が中心だった。
しかし現在は、
FRB利上げ観測 vs 日銀利上げ観測
になっている。
しかも米雇用統計が大幅に上振れし、米2年債利回りが上昇したにもかかわらずドル円は157円を維持できなかった。
これは円買い圧力が以前より強いことを示唆する。
したがって、単純に「CPI上振れ=ドル円上昇」と考えるのではなく、米金利上昇にドル円が実際についていくかを見る必要がある。
メインシナリオを修正する条件: 158円台を回復して定着し、米2年債利回りとFedWatchも同時に上昇する場合。または155円を明確に割り込み、日銀利上げ観測と円買いがさらに加速する場合。
ドル高・円安シナリオ
ドル高シナリオの中心は、
PPI上振れ+CPI上振れ
である。
この場合、
強い雇用 +高いインフレ → FRB利上げの条件が揃う → 9月利上げ確率上昇 → 米2年債利回り上昇 → ドル買い
となる。
まず157円、次に158円台を回復できるかが焦点となる。
ただし160円へ近づけば、再び日本当局による円安けん制・介入警戒が強くなるため、先週までのような一直線のドル高にはなりにくいと考える。
シナリオ修正条件: CPI上振れでもドル円が157~158円を回復できない場合。この場合は、円キャリー巻き戻しの力が米金利上昇を上回っている可能性がある。
ドル安・円高シナリオ
円高シナリオは、
日本GDP上振れ
+
米PPI・CPI鈍化
である。
この場合、
日銀利上げ期待上昇
+
FRB利上げ期待低下
→ 日米金利差縮小期待
→ 円買い
という、今週後半と同じ流れが強まる。
155.00~155.20円を明確に割り込むと、円キャリー取引の巻き戻しがさらに進む可能性がある。
Reutersは、円ショートが本格的に巻き戻された場合の大きな円高余地を指摘する市場関係者の見方も紹介している。ただしこれは予測レンジではなく、ポジション解消が極端に進んだ場合の試算として扱うべきである。
シナリオ修正条件: 155円を割ってもすぐ156円台を回復する、または米CPIが強くFedWatchの利上げ確率が大幅上昇する場合。
4.ドル円のテクニカル見通し
テクニカル面では、今週の160.39円→155.30円という約5円の急落によって、短期トレンドは明確に変化した。
とくに重要なのは、159円、158円、157円という複数の支持候補を短期間で下抜いたことである。
9月4日の取得時点のテクニカルデータでは、10日単純移動平均線156.33円、20日線156.06円、50日線157.04円、200日線158.96円となっていた。RSI(14)は43.5前後で、売られ過ぎを示す30にはまだ達していない。MACDはマイナス圏で売りシグナルとなっている。なお、これらは9月4日の市場途中に取得された値であり、週末確定値ではない。
日足では、価格が50日線・200日線を下回っており、中期的には上値が重くなったと判断できる。
上値の注目水準
156.50~157.00円
雇用統計直後の高値156.75円を含む最初の抵抗帯である。
157.00~157.50円
50日移動平均線付近が重なるゾーンであり、ここを回復できるかが重要である。
158.00~159.00円
今週急落時に割り込んだ価格帯であり、戻り売りが出やすい。
とくに200日線が158円台後半に位置しているため、158円台を回復して定着できれば、短期的な円高トレンドはいったん弱まったと判断しやすい。
下値の注目水準
155.30円
今週安値である。
155.00円
心理的節目であり、4日には155円に大型オプションも設定されていた。
155.20円前後
7月末の日米共同介入後に付けた安値と近く、重要な支持帯となる。
ここを明確に割り込むと、チャート上では次の支持水準を探す局面になる。
テクニカル上の分岐点
来週は、
上:157.00~157.50円
下:155.00~155.30円
を最初の分岐点と考える。
157.50円を回復すれば、今週の急落に対する戻りが続く可能性がある。
一方、155円を明確に割り込めば、単なる調整ではなく円高トレンドへの転換を意識する必要が出てくる。
4時間足については、信頼できる週末時点の10・20・50本移動平均線を確認できなかったため数値は掲載しない。
5.まとめ
2026年8月31日~9月4日のドル円は160.07円で始まり、160.39円まで上昇した後、155.30円まで約5円急落した。最大の変化は、ドル側ではなく円側で起きている。日銀の9月利上げ観測が急速に高まり、円キャリートレードの巻き戻しも意識されるようになった。
4日の米雇用統計は+16.2万人と予想を大幅に上回り、FedWatchの9月利上げ確率も再び約60%へ上昇した。それでもドル円が上昇を維持できなかったことは重要である。
来週9月7~11日は、10日のPPI、11日のCPIが最大の焦点となる。とくにCPIは9月15~16日のFOMCを前にした最後の大型インフレ指標であり、強い雇用と高い物価が確認されればFRB利上げ観測が強まる。一方、CPIが鈍化すれば利上げ期待は再び後退し得る。
そして今回は米国だけではない。9月17~18日には日銀会合も控えている。したがって今後のドル円は、「FRBが利上げするか」だけでなく「FRBと日銀のどちらの利上げ期待がより速く高まるか」を見る局面に入ったと考える。
本記事は市場動向の解説を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨する投資助言ではない。
