ドル円の「8年サイクル」を2026年の実際の相場で検証。2024年高値更新、日米金利差、為替介入から今後の転換点を考えます。
ドル円相場には、約8年前後の間隔で大きなドル高・円安のピークを迎えるという「8年サイクル」が知られています。
2025年に当サイトでもこの8年サイクルについて紹介しましたが、その後のドル円相場は非常に興味深い展開となりました。
2024年7月にドル円は161円台まで上昇し、「8年サイクルからみても円安のピークではないか」と考えられる局面を迎えました。しかし、2026年に入ると再び円安が進み、7月23日には163.99円まで上昇。約39年8カ月ぶりのドル高・円安水準を記録しました。
つまり、2024年を天井と考えた8年サイクルは、そのままでは成立しなかったことになります。
では、「ドル円の8年サイクル」という考え方そのものが間違っていたのでしょうか。
2026年の相場を振り返りながら考えてみます。
ドル円の「8年サイクル」とは
ドル円の長期チャートを見ると、ドル高・円安方向の大きな高値がおおむね8年前後の間隔で現れてきました。
代表的な高値を並べると、次のようになります。
| 時期 | ドル円の高値 | 前回からの期間 |
|---|---|---|
| 1974年1月 | 約304.90円 | ― |
| 1982年10月 | 約278.50円 | 約8年9カ月 |
| 1990年4月 | 約160.35円 | 約7年6カ月 |
| 1998年8月 | 約147.64円 | 約8年4カ月 |
| 2007年6月 | 約124.14円 | 約8年10カ月 |
| 2015年6月 | 約125.86円 | 約8年 |
| 2024年7月 | 約161.95円 | 約9年 |
もちろん、ぴったり8年ごとに高値をつけているわけではありません。
それでも7年半~9年程度の範囲に大きな高値が集中していたため、中長期のサイクル分析として市場で意識されることがあります。
詳しい仕組みについては、以前の記事「ドル円の8年サイクルとは?」でも解説しています。
2024年は8年サイクルの天井に見えた
2015年6月の125円台から約9年後となる2024年7月、ドル円は161円台まで上昇しました。
時間軸だけを見れば、過去の8年サイクルとかなり近い位置です。
さらに2024年には、日本政府・日銀による円買い為替介入や日銀の金融政策正常化も進みました。
そのため、
「2015年 → 2024年で今回のドル高・円安サイクルも終了するのではないか」
という見方には、それなりの説得力がありました。
ところが、その後の相場はそう単純には進みませんでした。
2026年、ドル円は2024年の高値を更新
2025年のドル円は一時140円近辺まで円高が進んだものの、その後再び円安方向へ転換しました。みずほリサーチ&テクノロジーズによると、2025年は年初の150円台後半から4月に140円近辺まで下落したあと、年末には再び150円台半ば~後半まで戻る「行ってこい」の相場となりました。
そして2026年には円安がさらに進行します。
7月23日にはドル円が163.99円をつけ、2024年の161円台を明確に更新しました。
この事実だけを見れば、
「2015年から約8~9年後となる2024年が今回のドル高サイクルの最終的な天井だった」
というシナリオは崩れたと考えるべきでしょう。
ここはサイクル分析を考えるうえで非常に重要なポイントです。
「8年サイクルが外れた」と考えるべきなのか
私は、ここでは2つに分けて考えるのがよいと思います。
まず、高値をつける時期を予測するものとしての8年サイクルは、今回は機能しなかったと考えるべきです。
2015年から2026年までは約11年あります。
これを「多少ずれただけ」としてしまうと、7年でも10年でも11年でも8年サイクルと説明できるようになり、分析としての意味がなくなってしまいます。
一方で、8年サイクルを、
「長期間続いたドル高・円安相場が成熟してくる時期を警戒する目安」
として利用するのであれば、まだ興味深い部分があります。
2024年以降のドル円は、一方向に円安が進むというより、急激な円高と円安を繰り返す非常に不安定な状態になっています。
つまり、8年サイクルは「天井の日付」を当てることには失敗したものの、長期的な円安相場が成熟局面へ入ったことを意識する材料にはなったと見ることもできます。
2026年の163.99円は新たな天井になるのか
ここからが今後の相場を見るうえで重要です。
163.99円をつけたあと、7月末には日本と米国が協調して円買い介入を実施しました。
財務省は8月3日、7月31日に米財務省と協調して円買い介入を実施したことを正式に発表しています。目的は、最近の円相場でみられた「過度な変動や無秩序な動き」への対応でした。
これを受けてドル円は急落し、円は一時155円台まで上昇しました。163.99円からみれば、短期間でかなり大きな調整です。
さらに8月7日に発表された米雇用統計が市場予想を大きく下回ると、米2年債利回りが低下し、ドル円も156円台まで円高が進みました。
興味深いのは、介入だけでなく、米国の金利環境そのものにも変化の兆候が現れていることです。
今回の転換点で重要なのは「サイクル」より金利差
ドル円を実際に動かしている最大の要因の1つは、やはり日米の金利差です。
国際通貨研究所は、2026年に入ってドル円と日米2年金利差の連動性が再び強まっていると分析しています。
日銀は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利を1.0%程度で推移させる方針を決定しました。
しかし、日本の金利が上昇しても米国との金利差は依然として大きく、円キャリートレードなどの円売り要因は簡単には消えません(円キャリートレードについては、関連記事「円キャリートレードとは?」でも解説しています)。
実際、2026年の円安は、
- 日米金利差
- 日本の実質金利の低さ
- 円キャリートレード
- 日本の財政に対する懸念
- 原油高による日本の交易条件悪化
などが複合的に作用して発生しました。
参考: 2026年のドル円展望 | みずほ銀行
つまり、サイクルが来たから円高になるのではありません。
サイクルはあくまで「そろそろ大きな変化が起きてもおかしくない」と考えるきっかけであり、実際に相場を転換させるのは金融政策や金利、資金フローなどのファンダメンタルズです。
円キャリートレードについては、関連記事「」でも解説しています。
163.99円が長期的な天井かを確認するポイント
それでは、2026年7月の163.99円が今回の長期的な円安ピークになるのでしょうか。
現時点では、まだ判断するには早いでしょう。
今後はとくに次の点を確認する必要があります。
米国の金利が低下していくか
米景気や雇用が減速し、FRBの金融政策が緩和方向へ向かえば、日米金利差縮小を通じて円高要因になります。
日銀が金融政策正常化を続けられるか
日本の物価や賃金が安定して上昇し、日銀が追加利上げを続けられるのであれば、円売りの大きな要因だった極端な低金利環境は徐々に変化します。
163.99円を再び上抜けるか
これは単純ですが重要です。
2026年7月の高値を超えず、中長期的に高値を切り下げていくのであれば、結果として163.99円が大きな転換点だった可能性が高まります。
反対に163.99円を明確に上抜ければ、ドル高・円安サイクルがまだ続いていると考え直す必要があります。
為替介入なしでも円高が進むか
介入による円高は政策によって作られた動きです。
本格的な相場転換であれば、その後は介入がなくても米金利低下や円キャリー取引の巻き戻しなどによって円高が続く必要があります。
この点は今後の相場を見るうえで非常に重要です。
サイクル分析は「予言」ではなく地図として使う
2026年の値動きを見ると、8年サイクルだけでドル円の天井を予測することの難しさがよく分かります。
しかし、これはサイクル分析がまったく役に立たないという意味でもありません。
たとえば、
長期間円安が続いている
↓
過去のサイクルからみても成熟局面にある
↓
日米金利差が縮小し始めた
↓
円キャリー取引が巻き戻される
↓
長期トレンドが転換する
というように、ファンダメンタルズと組み合わせて利用することで意味を持ちます。
サイクルだけを見て「8年経ったからドル円を売る」という使い方は危険ですが、「長期相場の現在位置」を考える材料としては興味深い指標です。
まとめ:2026年は8年サイクルを検証する重要な年に
ドル円の8年サイクルは、2015年の高値から約9年後となる2024年に161円台をつけたことで、いったんは過去のパターンを踏襲したように見えました。
しかし2026年7月、ドル円は163.99円まで上昇し、2024年の高値を更新しました。
したがって、「8年前後で必ずドル円が天井をつける」という意味では、今回の8年サイクルは機能しなかったと考えるのが妥当でしょう。
一方、2026年には日米協調による円買い介入が行われ、米雇用の減速によって日米金利差にも変化の兆しが出始めています。
もしかすると、2024年から2026年にかけての動き全体が、長く続いた円安相場の「天井形成局面」だったと後から評価される可能性もあります。
重要なのは、8年という数字そのものを信じることではありません。
サイクル、日米金利差、金融政策、為替介入、ポジション動向を組み合わせながら、相場の現在位置を考えること。
2026年後半のドル円は、「8年サイクルは本当に終わったのか」を検証する意味でも、非常に興味深い局面に入っています。
