2025年に入り、為替市場では「地政学リスクの高まり=円買い」という構図が再び注目を集めています。中東情勢や米国の政治的混乱を背景に、安全通貨としての日本円が見直される動きが続いています。 しかし、その一方で日本国内の長期金利は着実に上昇しており、「円=安全通貨」という見方...
2025年に入り、為替市場では「地政学リスクの高まり=円買い」という構図が再び注目を集めています。中東情勢や米国の政治的混乱を背景に、安全通貨としての日本円が見直される動きが続いています。
しかし、その一方で日本国内の長期金利は着実に上昇しており、「円=安全通貨」という見方にも揺らぎが見え始めています。今回は、円の持つ伝統的な安全資産としての評価と、現在進行中のリスク要因について整理してみましょう。
円が「安全資産」として評価される理由
円がリスクオフ局面で買われやすい理由には、以下のような背景があります。
- 日本は経常黒字国であり、世界最大級の対外純資産国。
- 中東や欧州に比べて地政学リスクの影響を受けにくい。
- 大規模な円キャリートレードの巻き戻しにより、リスク回避時に円買いが発生しやすい。
これらの要因が重なり、円は「世界で最も信頼される避難通貨のひとつ」として位置付けられてきました。
じわりと進む日本の長期金利上昇
一方で、日本の長期金利は2024年から上昇基調に転じています。日銀が長年続けてきたイールドカーブ・コントロール(YCC)を段階的に撤廃したことで、10年国債利回りは2025年に入り1.3%台まで上昇する場面も見られました。
これは、日本の金利水準がかつての「超低金利」から徐々に脱却しつつあることを意味します。
「円=安全通貨」の前提が崩れるリスク
日本の金利が上昇するということは、国債価格が下落していることを意味し、国内の債券市場におけるリスク増大を示唆しています。さらに、以下のような懸念も浮上しています。
▸ 日本の財政リスク
長期的に見れば、日本の政府債務残高はGDPの2倍以上に達しており、金利上昇=利払い増加=財政圧迫という構図が現実味を帯びています。
▸ インフレ率の上昇
サービス価格や賃金の上昇を背景に、インフレ率も高止まりしています。「デフレ=円の価値安定」というこれまでの常識が崩れつつあります。
▸ 海外勢による円債売り
日本国債を保有する海外投資家が利回り変動を嫌い、ポジションを縮小することで、円安圧力につながる可能性も否定できません。
短期と長期で分かれる円の評価
現在のところ、市場では「短期的なリスク回避=円買い」という構図は依然として有効です。ただし、中長期的には円の信頼性にも陰りが見え始めているのが実情です。
期間 | 円の評価 | 主な要因 |
---|---|---|
短期 | 安全通貨として買われやすい | リスクオフ時のポジション巻き戻し、地政学的中立性 |
長期 | 信認の揺らぎも | 財政悪化、金利上昇、インフレ定着 |
投資家が注視すべきポイント
- 日銀の今後の金融政策の方向性
- 日本のインフレ動向と実質金利
- 国債市場の需給動向(とくに海外勢の動き)
これらを踏まえ、円を安全通貨と位置付けるにあたっても、もはや「無条件での信頼」は難しい局面に来ていると言えるでしょう。
まとめ
「円=安全資産」という公式は、短期的には機能し続ける可能性が高いものの、金利やインフレ、財政の不安といったファンダメンタルズが無視できなくなってきています。
投資家としては、リスク回避時の円高局面を戦術的に活用しつつも、中長期的な円の信認に対しては慎重な視点を持つことが求められる時代に入ったと言えるでしょう。